こんにちは!kei_tamです!
旧ソ連で起こった、暗い時代のミステリー。
1959年に冷戦下の旧ソ連ウラル山脈で実際に起こった未解決事件『ディアトロフ峠事件』の謎に米国人ジャーナリストが挑む衝撃のノンフィクション『死に山 −世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』を紹介します。
僕自身は本書を手に取るまでこの「ディアトロフ峠事件」の存在を知らなかったのだが、オカルト界隈ではかなり有名な事件だという。実際に検索窓で「ディアトロフ峠事件」と叩いてみると、出るわ出るわ、「恐怖のミステリ」「数奇で奇妙な怪死事件」「最恐の未解決事件」などなど、思わずリンク先のページを覗いてみたくなるセンセーショナルな見出しの数々。それらのHPを閲覧していくごとに深まる謎。現実に起きた事件なのだから「結局のところ、これが真相なんだろう」と直感的に分かりそうなものだが、不可解な点が多すぎてその手掛かりすら分からない。
著者のドニー・アイカーも同じように、Webでこの事件の存在を初めて知り、興味本位で情報を集め出した一人だった。それがいつしか家族を祖国アメリカに残しロシアへ飛んで事件現場に踏み入り、貯金をはたいて事件の追跡を行うまでに熱中。最終的に事件の真相に迫る説を打ち立てる、というのが本書の内容である。
ディアトロフ峠事件のあらまし
1959年2月1日、ウラル工科大学の学生イーゴリ・ディアトロフをリーダーとする男女9人の登山グループが、ウラル山脈に位置するオトルテン山へ向かう雪山登山の途中で夜を明かすためテントを張った。しかし「その夜に何かが起こり」消息を絶つ。いつまでも下山の連絡が届かないことを不審に思った家族が通報。捜索隊が現地に入り、最終的に9人全員の遺体を発見する。しかしそこから、不審な点がつぎつぎと浮かび上がってくる。
- 遺体はテントから1キロ半ほど離れた場所で見つかった。
- それぞれ、ばらばらの場所に倒れていた。
- 外は氷点下30度の吹雪だったというのに、ろくに服を着ていなかった。
- 全員が靴を履いていなかった。
- テントは内側から引き裂かれていた。
- テントの中の荷物はそのままの状態で、何事もなかったかのように残されていた。
- 9人のうち6人は低体温症で亡くなっていたが、3人は頭蓋骨骨折など重い外傷を負っており、うち一人の遺体には舌がなかった。
- 一部の遺体の衣服がボロボロになっていた。
- 一部の衣服から高濃度の放射線が検出された。
さらに、次のような情報が事件をややこしくする。
- 彼らは全員がスキーや登山の経験豊富なメンバーであり、安全なはずのテントから吹雪の外へ飛び出すなど通常考えられない。
- 当時のソ連が山岳地帯で秘密裏に核実験を行っているという噂があった。
- 同じ2月1日にオトルテン山付近をトレッキングしていた別の2つのグループがその夜、空に非常に明るい奇妙な光球が走るのを目撃していた。
- メンバーの一人が最後に撮った写真の一つに、不自然な光体が写り込んでいた。
テントが張られていたホラチャフリ山は現地民族であるマンシ族の言葉で「死の山」という意味だそうだ。当時も専門機関による科学的な調査が行われたものの、最終的な死因は「未知の不可抗力」と記された報告書とともに調査は打ち切られている。
未解決事件の真相に迫る
話は1959年当時と2012年現在のストーリーを交互に織り交ぜる形で進んでいく。
2012年現在の話は著者ドニー・アイカーの一人称で進むのだが、事件現場へ実際に足を運んでしまうほどの行動力には驚かされる。しかも冒頭で述べたように家族をアメリカに残し、貯金も使い果たしながら。それほど夢中になれることを少し羨ましいと思えるくらいだ。
しかしその行動の記録こそがこの本の魅力。関連書類を漁って頭の中でつなぎ合わせたストーリーの上に、独自にひらめいた説を載せるような机上の産物ではないのだ。
事件を風化させないように努めるディアトロフ財団の理事長や、事件について知識のあるロシア人科学者と出会い、彼らとともにディアトロフ一行の通ったルートを辿って真冬の事件現場へ向かう過程は冒険のようだし、また当時持病の悪化のため行程を途中棄権したグループメンバーとの接触などストーリー性が抜群。
そしてクライマックスは、現代科学の知見に則り事件の真相に迫る著者による謎解きだ。ロシアへの旅を経て得た自身の体験と、ありとあらゆる資料を読み込んで得た情報によって旧来の雪崩説や強風説、政府陰謀説などをバッサバッサと否定していく。そしてひらめきを元に大学教授の力を借りて組み立てた著者の説はかなりの説得力を持っている。たぶんそれが真相(あるいはその一部)なのだろうとも思う。
著者の本業は映画やTV番組の制作や監督だそうで、まさに良質なドキュメンタリー番組を見ているような面白さ、といったら伝わりやすいかもしれない。
ところでこの事件は、半世紀も前の未解決事件ということが災いして、事実を離れてオカルト的な側面が強調されて拡大推測されてきた側面があるようだ。どこか閉ざされていて不穏なイメージがつきまとうソ連という国柄や、冷戦下という政治的背景、1959年という今ほど科学が発達していなかった時代背景、どこか不安を煽るメンバーが遺した白黒写真の数々など。確かにオカルトファンを楽しませる要素には事欠かない。関係者の間でも、陰謀説が普通に信じられていたそうだ。
本はまだ2013年に出版されたばかり(邦訳は2018年)なので、著者が導き出した科学的な説はこれから広く検証されて、この事件の謎めいた魅力はしぼんでいくのかもしれない。それでも怖いのは、メンバー9人全員が命を落とし決定的な物的証拠もない以上、「未解決事件」であることに未来永劫変わりない点である。
最後に、この本を読もうと思ったなら、事件のあらましを事前にネットで調べて期待を膨らましてから読んだ方が楽しめると思う。ただし、ネタバレを含むサイトは見ないように気をつけて!