『心を病んだら いけないの?うつ病社会の処方箋』【生きづらさを抱える人の読書】

こんにちは!kei_tamです!

今回紹介する本は2020年5月出版の『心を病んだら いけないの? うつ病社会の処方箋』
精神科医で批評家の斎藤 環さんと、重度のうつ病を乗り越えた経験を持つ歴史学者の與那覇 潤さんの2人の知識人が「生きづらい人をつくる社会」について分析する対談本です。

上手く話せない。
人づきあいが苦手。
それでも何とかなる-。

うつ病、コミュ障、ADHD、ASD、発達障害、人間関係、引きこもり、承認欲求、生きづらさ、隠キャ、自己肯定感、パワハラ

タイトルに「心の病」とあるので、うつ病だったり統合失調症といった精神病がテーマなのかな?と思ってしまいますが、実際には上に挙げたような「現代的なメンタル性」すべてが対象でした。

なので、この本のテーマを「現代社会の生きづらさ」と捉えると分かりやすいんじゃないかと思います。

少しでも生きづらさを感じている人や、「こんな自分を変えたい」と現状の自分に不満を感じている人へ、生きやすくなるヒントを得てくれる良書です。

『心を病んだら いけないの?うつ病社会の処方箋』

「そもそもなんで生きづらいって感じるの?」
そう誰かに訊かれたら、なんと答えますか?

ほとんどの人は、
「他人に対して自分の能力が劣っていると感じるから」
と答えるのではないかと思います。

だからこの生きづらさを解消するためは自分の能力を磨いて人並みに引き上げないといけない。
そのためのコミュニケーション術や会話術だったり脳科学といった知識やテクニックが巷には溢れています。

こうしたメンタルの問題をめぐる最新のトレンドは「脳科学」「発達障害」でしょうか。
「腸内フローラ」も徐々に注目を集めてきている気がしますね。

こうしたトピックに関心が集まるということは、それだけ現代には同じように悩んでいる人が多いということです。
かくいう僕自身も発達障害グレーゾーンの一人で前向き人生を手に入れるために、コミュニケーション力のテクニック本やら脳科学の解説本やらを読み漁ってきました。

そんな中でこの本はかなり特殊で、明らかに視点が違っていました。

端的にいうと、
生きづらさについて考える時にあなたが基準にしている「普通」とは現代社会が規定した「普通」なんだよ
という視点です。

この見方にはハッとさせられました。
「自分と他人の関係」ではなくて「生きづらさと社会構造の関係」です。

たとえば次の一節が象徴的だなと思いました。
與那覇さんがうつ病から立ち直るためのリハビリ中に感じたエピソードです。

実はデイケアでSST(※)をやっていたときに、忘れられないエピソードがあるんです。患者さんが「働いているときに苦しかった状況」をロールプレイで再現するのですが、どう考えても「病気」なのは患者さんを追い詰めた人の方でしょ、という話がいっぱい出てくる。パワハラ上司とか、モンスタークレーマーとかですね。彼らに攻撃されてうつになるのは「普通の人」であって、ほんとうに治療が必要なのは相手の側なわけです(苦笑)。

※SST…ロールプレイング形式の治療法

「普通」とされている人のイメージは、あくまで現代社会のものさしにおける「普通」であって、じゃあメンタルに問題を抱えている人が異常なのかというとそういう問題ではない。
社会が決めた分類だというわけです。

よく言われる「同調圧力が強い」「輪を重んじる」傾向があり、逆にいうと仲間はずれの人に厳しい日本社会の特徴のことを「日本教」と呼んだ上で、斎藤環さんは次のように述べています。

日本教が想定している人間は「ちょんと機能している人間」なんです。頑張っている人間、意思疎通ができる人間、これが標準形なのだから、全員がそれに合わせて振るまいなさいということになる。
逆にいうと、そうではない人間はダメなんですよ。空気を読まないとか、あるいは障害を持っていて意思疎通ができないとか、そういう人に対しては、非常に酷に扱ってしまう面がある。

この「日本教」的な考え方に対して、ダイバーシティ=多様性を受け入れる考え方こそが必要とされる。

本の後半では精神科医として斎藤環さんが実践するオープンダイアローグという、患者さんや家族と医師だけでなく臨床心理士や看護師など関係者も含めた10名前後のグループが集まって対話を重ねる中で心の病を解きほぐしていくという治療法について紹介されます。
その治療法の目的は、合意や調和(ハーモニー)といった一つになることを志向するのではなく、異質なもの同士が共存する状態(ポリフォニー)を志向することによって、患者さんの主体性を回復させるというものだそうです。

ハーモニーを乱すタイプの声を「ノリが悪い」「キモい」といって排除する日本教に対して、他者の中にある自分と異質な特性を、たとえ違和感を感じたとしても承認して尊重するポリフォニー志向で対話すること。

それこそが生きづらさを感じる人が生きやすくなる社会のあり方だよ、というのが本書の根底にある考え方です。

もちろん、この考え方を知ったから途端に生きるのが楽になるというものではありません。
現代社会を生きる以上、その社会の常識の上で生活していかざるをえません。

しかし、必ずしも社会的に機能している「普通」の人を目指すのが絶対じゃないのだと知ることは大きな希望ではないかと思います。

上で紹介したオープンダイアローグという新しい治療法を実践している斎藤環さんのような人が世の中にはいると知ることも救いになりますし、仕事やプライベートで出会うハーモニーを乱す「異常な正常者」と対峙するのではなく積極的に避ける姿勢を取ることでも楽になれるでしょう。

自分の生きづらさの原因は脳の問題かもしれない、でもそれ以上に、社会の問題かもしれません。

本の中に登場するテーマ

ここまで、この本の根本テーマについて紹介しました。
次にこの本の内容に戻ります。

この本のユニークなところは社会学的な視点から現代の生きづらさについて語られる点。
なのでブームやポップカルチャーといった社会現象が「生きづらさ」とどう関わっているのかの考察、それらとどう向きあっていくべきかといったヒントが満載です。

たとえば、次のような社会現象や作品、人物が本の中に登場します。

  • ヤンキー化する日本
  • 古市憲寿さん
  • 安倍政権
  • AIと5G時代
  • 歴史認識問題
  • ドナルド・トランプ
  • 半グレ
  • 毒親
  • PTSD
  • アダルト・チルドレン
  • アドラー・ブーム
  • 『天気の子』
  • オンラインサロン
  • 評価経済
  • ホリエモン
  • インスタグラム/ツイッター
  • 仮想通貨ブーム
  • ユーチューバー
  • ジブリ
  • ジョーカー(映画)
  • DEATH NOTE
  • J-POP
  • 「コミュ障ゆえに天才」神話
  • スティーブ・ジョブズ
  • スクールカースト
  • 電通裁判
  • プロジェクトX
  • PDCAサイクル

僕が面白いと感じたのは、スクールカーストとコミュ力の関係に関する與那覇さんの考察。

発達障害の人は「コミュ力が低い」と言われがちですが、この概念もきちんと考え直すべきだと思います。いま、子供たちの世界でコミュ力と言うと「空気を読んで、人をいじって、笑いを取れる」ことを意味しています。つまり、お笑い芸人がロールモデルになっている。
注意しなくてはいけないのは、コミュ力が高いことは、必ずしも共感力が高いことを意味しないんです。スクールカーストを研究している鈴木翔さん(社会学者)は「カースト上位者は共感力が低い」と論文に書いていますね。

まさに僕もコミュ力が高い人の定義を「空気を読んで、人をいじって、笑いを取れる」と思っていました。
でもそういう人は共感力がかけるために必ずしも人間関係の構築が上手いわけではないということですね。

必ずしもコミュ力が高いことが充実した人間関係を生み出すわけではない。だからコミュ力を磨くことに一生懸命になるだけでなく、共感力だったりといった力を身につけるのも大事なんですね。

親近感のあるポップカルチャーの話題もあれば、次のようなアカデミックなテーマも登場します。

  • フェストゥム(祭りの感覚)
  • 歴史認識問題
  • 実存主義
  • 反人間主義
  • 感情労働
  • 去勢
  • ポストモダン
  • 行動主義
  • エビデンス主義
  • コミュニズム

特に序盤でこれらの少し難しいテーマが語られますが、対話形式の本なので理解はしやすいです。
初心者向け哲学書は対話形式の本だと言われますが、それと同じ感じですね。

読み応えのある本ですので、さらっと読むというより腰を据えて読むと良いでしょう。

生きづらさについて関心があり、かつ上に挙げた話題のどれかに興味があれば、面白く読めるはずです。

おわりに

以上、『心を病んだら いけないの?うつ病社会の処方箋』の中身について紹介しました。

一つ注意したいのは、結構タイトルと本の中身にギャップがあること。
タイトルだけ読むと生き方のテクニックについて書かれた本のように思いますがですが、中身はどちらかというと学問寄りな本です。

でも、だからこそ読み応えがありますし、メンタルの問題に対する「見方・捉え方」を変える力があります。
「なるほど、そういう考え方もありか!」といった風に。

心の問題だからこそ、マインドやものの見方が大事です。
僕もこの本を読んで視野が広がりましたし、常識に踊らされずに自分らしく生きることができる場所を探して行こうと思えました。

少しでも生きづらさを感じている人や、現状の自分に劣等感を感じている人へ、生きやすくなるヒントを得てくれる良書です。

それでは、みなさんの人生が前向きになることを祈って!
See you next time!

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ケイタム
1990年2月生まれ みずがめ座 経歴:早稲田大学→音響系EC会社の海外調達部署→Web広告代理店にて広告運用 趣味:音楽、競馬、読書、カメラ、アウトドア、ラーメン屋めぐり 好きなアーティスト:スピッツ/King Gnu/サザンオールスターズ/Fishmans/きゃりーぱみゅぱみゅ/The Beatles/Jamiroquai/Two Door Cinema Club/Oasis/Friendly Fires/Foster the People/Grouplove/ワインレッドの心 好きな馬:キセキ